2016年11月16日水曜日

Like A Rolling Stone

I don't believe you. You are a liar. と言うボブ・ディランの声がぼわんぼわんと耳に残った。


おとといの夜、11年前に数ヶ月だけつけていた写真日記が出てきた。内容は、暗いものだと思い込んでいたのだが、意外にそれは、とても明るいものだった。28才の私のいいところが発揮された、もう今は書けないような、健気な文章であった。

「そこへボスが、おいしいコロッケとともに外出から帰ってきた。立ったまま、6人で手づかみで食べた。おいしいものをみんなで食べるのは、いいなぁ。おんなじものを楽しくおなかに入れたら、しばらくは頑張れそうだ。3個ずつ食べた。」

Once upon a time you dressed so fine
You threw the bums a dime in your prime, didn't you?
People'd call, say, beware doll, you're bound to fall
You thought they were all kiddin' you

昨日はとてもいいお天気だった。新品のクロエのブラックフォーマルを着て私は出かけて行った(駅のトイレで裏地を破り、タグがつきっぱなしなのにも途中まで気づかなかった)。久しぶりにお目にかかった人たちに「きれいになった」「すっきりした」と言われた。「どんだけ私、汚かったんですか」と返したら、皆笑ってくれた。「こいつは本当、ひどかったよ。クズ女みたいだったよ」と笑いながら言った人に私は、高級折詰寿司をもらい、白内障の手術の後には「栄養が足りてないから白内障になったんじゃないか」と美味しいものをおごってもらい、時には「車代」と現金を渡されたこともある(歩いて帰れる距離なのに)。「私がクズみたいに汚かったおかげで、だいぶ恵んでいただけて、良かったです」と笑って言うと、横にいた人は「センセイは優しいからなぁ」と穏やかに言った。この人にも、私は大いに助けられた。うんと苦しい時、この人がかつて書いた文章に励まされ、一方的に手紙を書いた。「そんなこともあったなぁ」と、彼は視線を遠くに投げた。ボスがいなければ、会うことがなかった人たち。

You used to laugh about
Everybody that was hangin' out
Now you don't talk so loud
Now you don't seem so proud
About having to be scrounging your next meal

お寿司、カステラ、コロッケ、エクレアとシュークリーム、豚の子袋や牛の内蔵に玄米のお餅が入ったスープ、お蕎麦、ブルーベリー入りのレアチーズケーキ、鱈ちり鍋、ジンギスカン、フグ、桜餅と柏餅、カレーうどん、赤飯、うな重(特上)、台湾料理、フランス料理、イタリアン、焼き鳥、カツ丼、焼き芋、ローストビーフ、ウニやら鯛やらトロやらの刺身、軍鶏鍋、手作りカレーやシチュー、手作り弁当、冷やし中華、餃子、あん肝、お好み焼き、饅頭、焼肉、オコゼ、おせち、ありとあらゆる肴、いろいろな酒。
朝昼晩、あれこれご馳走になって、当時の私はぷっくぷくだった。ボスの元を離れたら、自然と体重は減った。「すっきりした」ように見えるのは、そのせいだ。

「ボスを車椅子に乗せて、ローソンへ。「大福食いたい!」「マトンのしゃぶしゃぶ食いに行こう」等々、元気になったなぁ。ボスは、喫煙コーナーで病人たち(主に骨折組)と並んで煙草を吸った。点滴しながら、煙草を吸う人をはじめて見た。」

How does it feel
How does it feel
To be without a home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?

ある日、失恋して大泣き。「もう男の人は好きにならない。男の人は裏切っても、映画は裏切らないから、映画に打ち込みます!!」と浅すぎる宣言を全力でして、ううううと泣いていたら、「ばかだねえ。恋なんてしちゃってさ!」、ボスは部屋から出て行った。しばらくして戻ってくると(自転車で近所のお店に行っていたらしい)、くるみ黒糖を放るようにテーブルに置いて「これ食って元気出せ!」と言われた。ある時も、仕事についていけず、混乱して大泣き。「市松人形みてえな顔しやがって……」とギョッとした後、「お前はシクシク泣かないのが良い」とほめられ?た。とにかく当時の私はすぐに感情を顔に出していた(らしい。自覚なし。たち悪し)。我ながら、面倒くさい女だったんだなぁ。ゴメンナサイ。

「朝、軽くボスと口論。私はすぐ「ああいやだ」というのを顔に出すらしい。」

「昼下がり、私はボスに大いに怒られる。クビにされかける。クビと言われるのは4回目。私を怒りながら、ボスは私のマフラーをきれいにたたんでいる……それをどこかへ(ハンガーにきっちりかけて)持って行ってしまった。しゅんとして、マフラーをせずに、ボスと渋谷へ。」

You've gone to the finest school all right, Miss Lonely
But you know you only used to get juiced in it
Nobody has ever taught you how to live out on the street
And now you're gonna have to get used to it

今、探してみたら、本棚の奥から、2008年からつけていた日記も出てきた。こちらは主に仕事(映画の進行)について書かれてある。この日記をつけ始めた当時、私は、早朝はパン屋、昼から夕方までクリーニング屋、夜はボスのところへ行っていた。あんなに迷いなく、何か(それは映画だった)に焦がれ続けていることができて、しあわせだった。つらいこともたくさんあったはずだが、あまり思い出せない。
昨日、お会いできなかった大好きな2人の女性から電話をいただいた。苦しい時、まだ何も起こっていない時、起こっている時、起こった後にも、すっと現れる女性である。お二人の前で、ボスは清々しく「見栄」を張った(「男は無理と見栄を張ってナンボ」と、一応女であるはずの私に言って聞かせるのであった)。お会いすればいつだって、とても楽しそうに映画の話をしていた。いただいた電話、私は、うまく話せなかった。でも、お二人の声を聞けて、私の逆毛だった気分は落ち着いた。

「駅までTさんをお送りする。「そろそろ日記を書いた方がいいんじゃない?」「でも書けないことが多くって」「いいのよ、後で(ボス)が読んでダメだと思ったところは変えるんだから。何でも気にせず書いちゃいなさい」風が強くて、髪がぼうぼう。心もかき乱れる。今日でアルバイトを全て、辞めた」

You said you'd never compromise
With the mystery tramp, but now you realize
He's not selling any alibis
As you stare into the vacuum of his eyes
And say, do you want to make a deal?

「16時近く、ボスが帰ってきた。お土産はハーゲンダッツのアイス!大喜び!6人でアイスを食べ、コーヒーを飲んで話をした。空が青いなぁと思って、ぐるりと椅子を回しながら、空を見ていると、ボスに「お前はどこを見ているのか分からない」と言われた。」

「素晴らしい天気。資源ごみを出して、掃除。ボス来て、コーヒーを飲んでいると「お前は俺の邪魔ばっかりしているね。それについてはどう思っているのか?」「お前はホントに変わっているね」と、笑いながら言われる。シナリオ見直し。」

How does it feel
How does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?

昨日の空も青かった。私は何度も空を見上げた。朝からリピート大音量で"Like  A Rolling Stone"を聴きながら、私は電車に乗り、知らぬ道を歩いて行った。口ずさみながら、以前、ボスが『NO DIRECTION HOME』を観て(イメージフォーラムだったかなぁ)、感激して、電話をくれたことを思い出した。翌日、高校生の男の子のように、嬉しそうにパンフレットを見せてくれたことも。
途中、小さな公園の自動販売機でお茶を買い、カバの彫像と空を交互に見ながら、飲んだ。カバ。優しい顔をしていた。飲み終わり、ペットボトルを捨てると、途端に手が軽くなり、震えが止まらなくなった。

「ボスは最近、むかしの話をよくする。ぶ厚い本のページをめくっているように毎日少しずつ若い頃の話をする。時々、たましいだけが当時に戻ったようになって、またこっちに戻ってきて、目がハッと閃く時がある。思い出せないことがあると、てのひらを頭の前で泳がせて、記憶の糸をつかむ。」

You never turned around to see the frowns on the jugglers and clowns
When they all did tricks for you
Never understood that it ain't no good
You shouldn't let other people get your kicks for you

「ボスは日々、巨大な磁石のようになっていき、砂鉄が吸いつくみたいに。情報とか、人とか、モノとか、運とか、どんどん寄ってくる。いいものばかりでなく、時には悪いものも。」

「ボスは昨晩→5時まで新宿で飲んだらしい。めずらしい。ときどき、悪魔大王のような頭でむっくり起きては寝る。はっきりとした、しかしヒドイ低い声で「俺は具合悪いよ!」と言う。」

You used to ride on the chrome horse with your diplomat
Who carried on his shoulder a Siamese cat
Ain't it hard when you discover that
He really wasn't where it's at
After he took from you everything he could steal?

「ボスは競馬1点買いしたのが大当たりして、10万が40万になったらしい。呼ばれてボスの部屋へ行くと、TVにその馬が映っていた。眉間(というのか?でも人間でいうと、眉間だ)に白い稲妻のような模様の入った、きれいな牝馬だった。騎手のお兄さんも嬉しそう。ボスも嬉しそうである。」

「14時近く、ボスは可愛い白い靴を履いて、馬券を買いに出かけて行った。桜花賞。やや負けしたらしい。」

How does it feel
How does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?

ボスからもらうものはいつだって、包装紙やリボンが外されていた。花さえも、そのまま手渡された。椿、芍薬、紫陽花、チューリップ。昨日は、黄色と白いカーネーションを、私から、差し出した。花びらをむしって、食ってやろうかとも思ったけれども。「花は枯れて汚くなるから嫌い」、そう言われそうだった。あまり見ずに「違う人みたい」と小さく言ったら、隣の人が「いい人そうに見える!」と、ボスのほっぺを優しく数度たたいていた。ウォータープルーフのマスカラをしてきて、よかった。

「Xさんと話をすると、ボス大荒れ。ワインの入った重い箱をカウンター越しに投げていた。裸足で。ビールの箱(これも重い)も、がんがんカウンターの上に積んでいく。元気になったんだなぁと思って、いつものように止めもせず、ただ見ていた。」

Princess on the steeple and all the pretty people
They're drinkin',  thinkin',  that they got it made
Exchanging all precious gifts
But you better take a diamond ring
You better pawn it babe

帰り道、駅へと向かってふらふら歩いていたら、ボスとボスの友人と3人で深夜にコーヒーを飲んだ喫茶店を見つけた。かつて3人で座った外の席で、クロワッサンサンドを食べた。2人ともいなくなって、私だけが、ひとり座っていた。バラの模様のクッションと、灰皿に盛られた出がらしのコーヒー、年季の入ったコースター、時計、親切なお店の方。あの時は夜だったし、おそらく飲酒後だったから分からなかったけど、こんなに駅が近かったんだ。何を話したのかは、忘れてしまった。ごちそうさまでした、ありがとうございました。また、来ます。
you're invisible now, now, now.

「9時に出勤して、ポットに給水して、ボスの部屋へ行き、戻ってくると……ショック!!水を止め忘れていました!流しの周りが水浸し!きゃーとひとりで、とりあえず、ちりとりの中に水を入れて流しへ……またしてもショック!!ちりとりの中にゴミと枯葉が入っていました。流しの中がゴミだらけ!きえーとひとりで、新聞紙を床に敷きまくって吸水。何をやってんだか。ボスに「何やってんの?」と聞かれ、「涙が溢れて……」と言ったら、「バカ!」と言われた。30分ほどで元通りに。」

You used to be so amused
At Napoleon in rags and the language that he used
Go to him now, he calls you, you can't refuse
When you got nothing, you got nothing to lose
You're invisible now, you got no secrets to conceal

「ボス、青森行きの準備。「鬼の居ぬ間に洗濯。のびのびします」と言ったら、「おお、しろ、おお、しろ」というお返事。」

また、しばらく、のびのびします。

How does it feel
How does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone?

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