2016年7月17日日曜日

決意

1ヶ月ほど前から、息子に「2才になったら、おっぱい、夜だけにしてみようよ」と提案してきた。お恥ずかしい話だが(そうなのかどうなのか?)、我が家は、おっぱいは24時間無制限。いつでも構わないことにしてきた。してきた、というか、いつの間にかそうなっていたというか…「うちだってまだ吸ってますよ」というお宅でも、大抵は夜だけなのである。正直、いつも要求に応えるのは、なかなか大変。皿を洗っていても、新聞を読んでいても、化粧をしていても、食後でも(もちろん魚を食べた後などもである)、洗濯を干していても、「おっぱい!」とシャツをめくられ、拒否しようものなら大荒れ。めんどくさい…という言葉が、喉元まで出てきて、慌てて飲み込むのであった… あんなに母乳がどうとか悩んでいた日々は何だったんだろうか…

「できそう?」熱い眼差しで聞いてみると、「うん!できそうおもう!」と言いながら、おっぱいちゅーちゅーする息子…ほんとかなぁ…無理そうだなぁ。しかし、諦めずに毎日、「おっぱいは2才になったら夜だけだよ」「うん!」「保育園に行っている間はちゅーちゅーしてないんだから、できるよ」「うん!できるー」「今はいいの…?」「まだ1さいだからだいじょーぶ!」この繰り返しながらも、声がけを徹底。よくよく考えてみれば、外では、おっぱいくれやー、とは言わないのである。いいタイミングなのかもしれない。無理にやめさせようとは思わないが、せめて無節操にではなく、夜だけにしたい。そしてできれば、おっぱいにわさびを塗ったりとか絵を描いて脅かすとかではなく、本人も納得した上で離れていってくれれば…果たして、できるのだろうか?しかし、私だけでの力では無理そうだと思い、周囲を巻き込むことにした。保育園で会うお母さんや先生に、「うちの子は2才になったら、おっぱいは夜だけにするんですよ。話し合って、そう決めたんですよ。ねえ!!」と、敢えて息子の前で言ってみる作戦である。無神経極まりない母の言動に、息子はバツが悪そうに、そっと視線をそらし、「あっ、からす…」などと話を逸らそうとしていた。いや、本当は別にいいんだけどね… 迷いまくり、決意が揺らぎそうにもなるが、真白いふんどしをぐいっと絞めるような気持ちで、プレッシャーを与える。しばらくすると、息子がお気に入りのぬいぐるみに「2さいになったら、おっぱいやめるよ」と小声で話しかけているのを耳にした。さらにある日、子供番組を見ていたら「ねえねえおかーさん、このおにいちゃん、おっぱいちゅーちゅーしてる?」と聞いてきた。気にしている…「いやー、してないだろうね。こういう番組でかっこよく踊っているお兄ちゃんはさぁ、やっぱりおっぱいはやめているだろうねえ」「おむちゅしてるかなぁ」「えっ、おむつ?!…おむつも外してますよ。見てよ、あのお尻。もこもこしてないじゃない。すっきりしてるじゃない」「……」気にしている…しかも、おむつのことまでも…(言ってないのに)。こうなってくると、若干「なんだか、かわいそうかなぁ」という思いが浮かんでくる。でも、本人が葛藤している今になって「かわいそう」とは失礼だと思い、その思いを打ち消すように、ぐっと腹に力を入れた。

先週、保育園の保護者面談があった。担任の若い先生が「あ!おっぱい吸ってるんですか?」と驚いた表情で聞いてきた。「あれ?知りませんでした?一緒にいる時は絶え間なく求められております。少し前からプレッシャーをかけていて、本人は「やめる、やめれる」と言っていますけどね…ははは…」「そうですか…園ではそういうそぶりも見せませんし…やめれるといいこともあるし(「へーなんだろうか」と思いつつ聞かずにいる私)…、実はSくんが先日完全に卒乳したそうですよ」「え?!Sくんが!完全に?それはすごい!」
以前、私が「うちの子、2才で…」とやっている背後で、キャー!という声が聞こえ、振り返るとSくんのお母さんが「おっぱいちゅーちゅーという言葉に反応して…」Sくんに襲われていたのであった。そんなSくんが卒乳。すごいぞ。(どうやらSくんのお父さんがSくんとがっぷり四つに組んで、2日がかりでやめさせたらしい。「1日目は大泣きでした。2日目の夜には、パパと手をつないで寝室に消えて行って…けっこうあっけなかったです」とSくん母談。)

面談の帰り道、息子に、先生とお話しした内容を伝える。息子はふんふんと聞いていた。流れで、「あっ、そうそう。Sくんから聞いてるかもしれないけどさー、Sくん、おっぱい完全にやめたらしいよ」さりげなく伝えてみた。
夕食後、いつものように私ににじり寄ってくる息子だったが、心なしか、ためらいを感じた。「おっぱい、だめ?」泣き笑いのような表情である。「どう思う?」「おっぱいちゅーちゅーしたいいー」私の膝に顔を埋める。唯一のおっぱい仲間であるSくんの卒乳は、息子にとってかなりの衝撃だった様子である(思い返せば、ハイハイした時も立った時も歩き始めも、まずSくんができるようになり、続いて息子ができるようになってきたのである。Sくんの息子への影響力たるや)。昨日までは「まだだいじょーぶ!」だったのに…こんなに変わるとは。ここで甘くしては、息子の決意が揺らいでしまう。息子の決意を踏みにじることになってしまう。「がんばろう!抱っこはいいんだよ。抱っこしようか?」「だっこー」「がんばろう!応援するよ!」ぎゅうっと抱きしめると、泣かずに「ううう」、乗り切った。乗り切っただけでなく、お兄ちゃんスイッチが入ったのか、自力でズボンを脱いで見せたり、自ら便座に座ってうんちしようとしてみたり、飲み終えたコップを「これもおねがいします」と台所へ持ってきたりしていた。…そんなに急がなくて、大丈夫です。
ついに、おっぱいが許される就寝時間がくると「とくべつなじかん」と息子は言い、おっぱいをちゅーちゅーしながら、あっという間に眠った。そして、翌日から、寝るとき以外は、一切、おっぱいを求めなくなった。昨日今日、保育園も休みで、ずっと一緒にいたけれど、息子はやはり一切「おっぱい」という言葉を口にせず、そっと触れることはあっても、前みたいに「おっぱいおっぱい」と言って荒れたりもしなかった。おっぱい無制限の時よりも落ち着いているようだった。おっぱいを断られたり待たされたりするストレスがないからなのか、おっぱいなしでやれている自分に自信が出てきたからなのか。ただ、お昼寝はうまくできないようである。「抱っこしようか?」と言ったら、私のTシャツを腹の下までぐいっと下げて、「だっこ、いらない」と言った。おおお。夜、「昼間、おっぱいのこと、言わないの、気づいてるよ。がんばってるね。分かってるよ」と、待ちに待ったおっぱいをちゅーちゅーする息子の背中を撫でながら声をかけたら、顔を上げ、みるみる頬を緩ませて「うん」と言った。朝には夫に同じことを言われ、照れまくっていた。誰かに見られている、見てもらっているんだと知ること。

受け入れがたい提案をされ、それを言葉で理解し、プレッシャーを感じつつも、自分でどうするか決め、実行する。そして、その決意は固い。間もなく2才になる我が子が、そんなことをしてみせるとは思いもしなかった。じっさい、「かわいそうじゃない?」と言ってくる人もいたし(そう言われると、自分でもそう思っているくせにカチンとくる不思議。自分で思っているから尚更なのか)、しつこいかなぁとも思ったのだが、予想外の展開に、我が息子ながら感動している。保育園の先生にこのことを話すと、先生方は皆、少し沈黙したのち、「1才でもそんな風に決意を固めて実行できるんですね…感動しますね」と言ってくださった。思えば、これから、息子の人生には、様々なプレッシャーとか、他者との比較とか、理不尽な課題とか、デリカシーのない他人(私含む)からの言葉とか、わんさか出てくるのである。1才で自分で決められて、それを実行できる力があるんだから、大丈夫、きみは、この先、どうにでもなる。この先どうなるかなんて、誰にも分からないご時世である。きっと、これから、世の中は、ますますハードになっていくだろう。何でも自分で決めて、自信を持って、揺るがずに前進しなさい。後方支援は惜しみません。

さっき、2人でシャワーを浴びて(息子はとびひになり、入浴厳禁である。とびひ。すごい感染力である。あっという間に両足が、熟れた桃を剥いたような有様に。「いたいけどーだいじょーぶ」本人談。包帯も薬の味も気に入ってしまい、とびひ生活を意外とエンジョイしている息子である)、息子のおちんちんを洗ってやろうとしたら、急に「はずかしいー」と両手で隠すのである。「恥ずかしいの?」「はずかしー、やめてー、うふふふ」「へー」と、かまわずにシャワーをかけると、嬉しそうに身をよじり、「あーでました」と、勢いよくおしっこをした。恥ずかしい!どこからきたのか、その感情は。そして、その感情が「はずかしい」という言葉で言い表せることに気がついたとは。明後日で2才。誕生日より前に、「はずかしー」を手に入れて、「おっぱいは夜だけ」を達成したね。生まれてたった2年で、こんなになるんだなぁ。びっくり。

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