2016年6月18日土曜日

矛盾/自戒

妹も同僚も気軽に利用しているネットオークション。とても欲しいDVDがあって、しかしそれは廃盤になっているため、私もオークションを利用してみることにした。

2日前。欲しいDVDを発見。興奮とキンチョーのあまり、一桁多く(7万円!!)入札。あまりに恐ろしすぎて(犯罪に巻き込まれているような心持ち)、すぐそばにいる夫に言えなかった。蒸し暑い夜だったが、ぞぞぞーっと耳たぶと背中の毛が立った。こそこそとiPhone(ガラケーからiPhoneになって、もうすぐ2ヶ月。ガラケーの頃とあんまり変わらないのね。もっとメールがじゃんじゃん届くものかと思った。そういうわけじゃない。間違ってました)を操作。あー何やってんだー。出品者の方に、一桁多く入れてしまったこと、他の入札者の方にも申し訳なく思っていること、オークションに参加したい気持ちはあるけれどお邪魔になってしまうなら入札削除していただいても構わない旨メッセージを送る。ものの5分で返事が届く。「入札を削除しましたので、ご希望の金額で改めて入札してみてください」。何ていい人なのか。感動する。同じ作品に惹かれた者同士としての憐れみなのか… しかし、一度、入札が削除されたオークションには再び入札することはできないのであった。「ご親切に感謝いたします。オークションは初めてで… お手数おかけしました」とメッセージを送った。

ああ、でも、諦めきれないのであった。先ほど、夫に代わりに入札してくれるように頼み、了解を得たのだが、そのオークションページは探しても出てこない。あー、早めに締め切っちゃったんだーと悲しくしていたら、誰も入札していない同商品(前回より3000円ほど高い)を見つけた。しかも、締め切りは30分後。夫が「もうそれに入札すればいいじゃない。いいよ、半分出してあげるよ」と、ホトケのお言葉。提示額をそのまま入札したら、数分後、落札のメールがきた。嬉しいような、裏暗いような気持ちで、早速ネットで振り込みをする。銀行名、支店名、口座番号、金額。なめるように何度も確認したつもりなのに、50円少なく入金してしまった。あーなにやってんだー。夫に報告すると、ものすごく呆れて「何やってんだ… 俺は『マイインターン』を観ます」とレンタルしてきたDVDを観始めた。…どうしたんだ、私。すっかり正気をなくしている… 出品者(某有名中古小売店)にメールを出す。土日はお休みみたいだから、返事は月曜日まで来ないだろう。私、どぉなっちゃってんだよ。(その後、2日前に誤入札してしまった、件のオークションページを発見する… 呪われているのか?なぜ、こんなにもお目当ての品にたどり着けないのか…  それにしても、皆さん、オークション、ふつうにできるなんてすごい。前都知事も美術品をオークションで購入していたというけれど、すごいよ、いろんな意味で。)

オークション。やっぱり向いていない。薄々感じてはいたのだが… この相性の悪さ。「片手間でやるからだよ。じっくりパソコンでやればよかったよ」と夫。ええ、そういう意見もあるでしょうよ。いや、でも、絶対、相性は良くない。今後、どんなに欲しいものがあったとしても、オークションはやらないと心に誓う私であった。「いいじゃない。いずれにせよ、欲しいものは買えたんでしょ」と、こちらも見ずに夫が言う。そうだけれども…

昨日の夕刊。連載、音楽評論家・高本良彦さんによる『中古盤探偵がゆく』。高本さんは居酒屋近くの古本屋で3枚組のソノシート『吉川幸次郎杜詩講義』(1963年録音)を見つけたそうである(居酒屋近くの古本屋っていい。以前、住んでいた経堂には、遠藤書店と大河堂書店という古本屋があった。私は一人で飲みに行く前にはどちらかに立ち寄り、必ず何かしら買って、暗い照明の中ちびちび飲みながら、本を読んだものです。いつかまた古本屋がある町に住みたい)。吉川幸次郎は京都大学の教授で、杜甫の研究者であった人物らしい。「国破れて山河あり」の一節について語っている部分が引用されていたのだが、オークションにがっくりうなだれ、力なく片手で白旗を振りながら、私はこの文章を思い出した。

「国破れてと申しますのは敗戦という意味ではございません。国家の秩序が、ちぎれた紙のようにめちゃくちゃに混乱したのが、国破れてであります。人間の秩序は破れ去りましたけれども、しかし、自然の秩序は昔のままに、山も川も、確実に昔のままに存在している。山も川も確実に存在していることが、それと、対照的に、人間の秩序の、無残な破壊を一層、人々に鋭く感じさせるわけでります」

私ごときの幼稚な出来事にこのような言葉を合わせてしまうのは、甚だ失礼ではある。しかし、引用せずにはいられない。こういう、滋味のある言葉の前では、さらに自分が恥ずかしく思えてくる。わざと恥ずかしい思いを課して、自らを戒めようとする私は(今年)40才。幼稚だ、幼稚。

一方で、オークションに馴染まない自分に救いも感じている。手に取らないものを、ちいさい画面からぴゅーんと買ってしまう不健康さ。いや、ものすごく便利だと思うけれども。でも、いつだって、ちょっとだけ信じられないような気がする、ほんのちょっとだけこわい(ええ、負け惜しみです)。それにしても、便利過ぎるのって、やっぱりだめかもしれない。何にでもすぐに手が届くなんて、だめ。聴いてみたいレコード、読んでみたい本、行ってみたい場所、飲んでみたい酒、会ってみたい人、気になっている人 、理想?etcetc… かつては「お目当て」に、そう簡単にはたどり着けない方がフツーだったはず。忘れるな、自分。便利に慣れるな、自分。きりりと鉢巻きを巻く感じで。

そうは言いつつも、夕刊の読書日記で、松尾スズキさんが紹介されていた『天才伝説 横山やすし』(小林信彦 著/文春文庫)を、ネットで送料込み404円で手に入れ、うきうき読み進めている私であります。とほほ。説得力ないなぁ。(でも、本はめちゃくちゃ面白い!)

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