2016年1月19日火曜日

はじめて

真夜中に目が覚めた。カーテンの向こうが、うっすら明るい。遠く、車が走る音がいつもより近く、より響いて感じる。雪が降っている、そう思ったら、なかなか眠れなかった。
朝、息子はゆすっても話しかけても全く起きなかった。そして、ようやく目を開けると、窓の外を見て「わあ」と言って、目を丸くし喜んだ。朝の支度を終えると、息子をむくむくに着込ませ、ベビーキャリアで抱っこし、私のコートの下に入れる。保育園のあれこれをリュックに背負い、その上からレインポンチョを着用、長靴履きに傘という、気合いの入ったスタイルで家を出た。雪はすでに雨に変わって、水を含んだ雪に足を取られて、なかなか前に進まない。しかし私は北国出身。この程度の雪、へっちゃらである。ただ、故郷と決定的に違うのは、雪かきが全くなされていないこと。それに、大雪大雪と騒ぎすぎ。でも仕方ない、それもまた面白いじゃないの。元気に『北風小僧の寒太郎』を歌いながら前進。「くちぶえ吹き吹き、一人旅」の部分が好きだから、2度歌う。息子はキビシー寒風の中、口をつぐんで、いつもと違う町の風景をじっと見つめていた。

息子を保育園に預け、駅方面へと急ぐ。大きな公園の前で信号待ちをしていたら、雪が雨水に溶け沼のようになり、一部凍って、とんでもないことになっていた。じゃぶじゃぶと前進していたら、そこに大型トラックがスピードを緩めずに走ってきて、私は頭からザブーンと冷水を浴びた。横断歩道の向こう側の人々は「あっ」という顔をして、目を逸らした。水滴で前が見えないようになったサングラスを敢えて外さずに、ヨガクラスへ向かう。9時半からヨガ体験をすることになっていたのである。

ヨガ。私がやることになるとは。これまでの人生で全くのノーマーク。私には関係のないことだと思っていたのに。やってみようかなと思ったのは、ちょっとしたきっかけの積み重ねである。アルゼンチンの友人が鎌倉の海岸でやっていたのを見た。保育園で同じクラスのお母さんから勧められた(彼女はもうやっていない)。ダンスを見ていて、体を動かしてみたいなと思ったこと。ヨガマットのインソールが敷かれたパンプスを買ったこと(履き心地がとてもいいのである。「ヨガやるしかないじゃん」と冗談を言っていたのである)。特別な準備が要らず、意外と月謝が安かったこと(4回レッスンで7,560円)。我が人生初のヨガ。それがこの大雪である。これはもう私のやる気が試されているとしか思えない。10分ほど遅刻して、レッスンに参加する。説明とかは一切ないのね。見よう見まねで、やってみる。思った以上にできない。自分の体、その動きにだけ集中する。あまりに夢中で、自意識みたいなものは現れない。39才になると、正真正銘の「初めて」って、なかなかないのである。初めてのことであっても、まぁ、なんとなく出来たり、出来なくても、「あーこういうことね」と思っちゃったりするのである。ヨガは、ぴかぴかの「初めて」であった。誰かに何かを習うというのもいい。出来ているのかいないのかすら、よく判らない。独特の「ナントカしているかーもしれない」「ナントカを感じ始めたらーナントカでーナントカー、ハー(息を吐く音)」という語り?も、それほど気にならなかったし、むしろ集中を高めてくれるようだった。もっとやってみたい、と温まった体で、強く思った。

先生(というのか?)は、グッドルッキングな、仕事ができる感じの、ショートカットの若い女性だった。レッスン後、ヨガの説明をしてくれたのだが、言い淀みもなく、まっすぐ目を見て話す。身につけているウェアとか、アクセサリーとか、何一つ「なんとなく選んじゃった」という感じがしない。(ちなみに私は、よれよれのスウエットに、昨日1日着ていた長袖Tシャツであった。長袖Tシャツの裾には、息子のカピカピになった鼻水やよだれが付いていた。)この人、飲み過ぎて翌日に後悔するとか、気になっている男の人に酔って電話しちゃって自己嫌悪に陥るとか、お菓子をバカ食いするとか、そういうことないのかな、ないだろうなぁ。そんなことを考えながら、私も目をそらさずに話を聞く。「前屈ができないから、体が硬いと思っていらっしゃるかもしれませんが、肩周りは結構柔らかいです。私は、体が硬いとは思いません」と、きれいな笑顔で言ってくださった。ほんとにきれいな顔しているなぁ、と、思って見ていたら、大きな音でお腹が鳴った。煩悩の塊の私である。煩悩はそのままに、やるしかない。2月から通うことにした。

16時前、保育園から電話。息子がまたしても発熱しているという。どしゃどしゃ雪の中をえっちらおっちら迎えに行く。息子はごきげん。1つ上のクラスのおゆうぎを完璧にマスターして、踊っていた。びっくり。「おやつもおかわりして、とってもごきげん。でもほっぺが真っ赤だったから、測ってみたら38.4℃で、ご連絡しました」と、担任の先生。「ママ、きたー」と大喜びの息子を連れて帰る。「雪、積もったね」と声をかけたら「ふったー」。「あっ、たくしー、きゅうきゅうしゃ、きたー」、「きたー、また、きたー、しゅうしゅうしゃ(ごみ収集車)」。「また来た」って、いつ覚えたんだろうか。「のむ、おちゃーじゅーちゅ!、のむー、ママー」。…今、「飲む」って言ったよね。帰って、ジュースを飲み、容器を振って「もう、はいってないよお」。え?「入ってないよ」って言った?ちなみに、昨日は、車にずっと乗っていたくて、「ぶーぶー、おりないよー」と言った息子。もう何が何だか…夢みたいである。明日で1才半。いろいろできるんだね、1才半。眠るまでごきげんで、おもちゃを片付けて、布団に入って、20時には眠った。熱を測ったら、38.9℃。…けっこう熱あるね。「うんうん」だって。

あ。正真正銘の「初めて」。私、毎日見ているじゃん。「初めて」は、一度きり。日日、ぜいたくさせていただいております。

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