2015年11月6日金曜日

妊婦さん

以前、隣のショップで働いていた女性に会った。私が育休明け復帰した時、彼女の姿はもうなく、昨年別店舗に異動になったとのことだった。顔を見てすぐ「あ、このひと、妊娠してるんじゃないかな」と思った。お腹は膨らんでいるような、いないような。でも、なんか、ピンときたのである。顔が違う。雰囲気が変わった。洗練された都会の女性の顔から、土着の風味のある女の顔(まあるい)になっていた。そうしたら、やっぱり妊娠5ヶ月とのことだった。

今朝、各駅停車で、座って『母の友』最新号を読んでいたら(ちなみに、2度、2人のおばあさんに席を譲ったのだが、それぞれ「私、マスクしているけれど風邪じゃないの」「次の次の次で降りるから」という理由で断られた)、目の前に全身黒づくめのおしゃれな若い女性が立った。なんだか無性に気になった。そして、またもやピンときた。「このひと、お腹に、いるな」。彼女はすてきな小ぶりのリュックを背負っていた。例の、マタニティーキーホルダー(と言うんだっけ)が見えないか、ぐーんと首を伸ばしてみた。見えない。でも、たぶん付けていない。すると彼女は一瞬、右手をそっとお腹(膨らんでいない)に当てた。それを見るやいなや、光の速さで、確信した。行動に移す時である。「あの、勘違いかもしれないけれど、良かったら、座りませんか」と勇気を出して言ってみたら、彼女はマスクの上の大きなお目目をさらに大きくして、「ありがとうございます」と座った。やっぱり… 「間違ってるかもとか思って…」動揺して、少しごにょごにょとしながら、私は吊り革をつかんだ。降りる時、「あの、ありがとうございました」と声をかけられた。「私もこの間、産んだんです」と、言わなくていいかもしれないことを言って(そして、この間、でもない)、私は電車を降りた。

私が妊婦なりたての頃、あの、マタニティーキーホルダーをバッグに付けることに抵抗があった。母子手帳を役所にもらいに行った時、あれこれと一緒に渡されたのだが、自分は使うことはないだろうとさえ思っていた。「席を譲ってくれと言ってるみたいだしなぁ」「妊娠してるってアピールしたいわけじゃない」「ピンク色とハートの中のお母さんと赤ちゃんのイラストが、あまりにもやさしーいから、なんか照れくさいよ」等々、あらゆる理由をつけては拒絶していたものだった。しかし、妊娠初期の通勤は予想外に大変だった。しんどいんですよ。マスクをして、ぐったりと、吊り革をつかんで。ある日、私の様子を見た夫から「もう、そんなこと言ってないで、ちゃんと付けること」と、バッグに付けられてしまった。はじめのうちは、席を譲られることに慣れなかった。いいです、と断ってしまったこともあった。でもある時、断るってことは、そのひとの好意を拒絶する、失礼なことだ、と考えを改めた。それから譲られた時は素直に「助かります、ありがとうございます」と言って、座ることにした。でもやっぱり慣れなくて、譲られて座った時には、本を読んだり、音楽を聴いたりしてはだめなような気がした。そんなにリラックスしては申し訳ないというか…

お腹が目立たない頃こそ、座らなくてはいけないんですよ。それに、あのキーホルダーが席を譲るきっかけを与えてくれるんですよね。マタニティーキーホルダーを付けているせいで嫌がらせに遭うとか報道されていたこともあったけれど、私はそういうことは一度もなかった。もちろん、席を譲ってもらえないこともあったけれど、おかげさまで、私はでっかい腹の中で息子を大きくすることができた。「みんなに育ててもらっている」。この世の中には、きれいごとみたいなことを心の底から感じることが、まだまだあるんだと思ったものでした。
妊婦さん、もし、これを読んでいたら、迷わずバッグに付けて、電車に乗る時は座っている人の方に向けてくださいね。ただでさえ、電車の中の人たちは周りを見ていない。スマホ、漫画、居眠り、おしゃべり。仕方ないこともある。でもいつか、自分が妊婦でなくなった時、妊婦さんに席を譲ってあげてほしいと思います。

ところで、電車の中で私が読んでいた『母の友』12月号には「これからの平和のために、わたしたちにできること」という特集が組まれている。今朝読んだ中では、中川李枝子さんの文章が、じんわり染みた。

子育て中のお母さんは、時代の先端にいる人です。世界をしっかり見て、新聞を読んで、選挙に行って、自分の体を大切にしてほしい。人に関心を持つ。無関心はいけない。子どもはお母さんが一番大好き。お母さんがいつも笑顔でいられることが大事じゃないかしら。

時代の先端にいる。めげそうになったら、思い出そう。無関心はいけない。何ごとにも。ほんとうに、そうよ。

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