2015年9月15日火曜日

ja matane!

昨晩、土色の顔色で帰ってきた夫。「もうだめだ」と気弱なセリフを吐きながら、熱を計ると、まさかの36.8℃。鼻で笑う、ヒドい妻(私)。「頭が痛すぎて、気持ち悪い」そう言って、夫はあっという間に眠ってしまった。今朝、眠る夫の腕を触ると熱い。体温計を脇に差し込むと、39.4℃。勝手に体温を計られていることに気づいて目を覚ました夫が「熱ない?ないでしょ」と言う。私は「ある。すごくあるよ」と笑った。息子を着替えさせ、息子と朝食をとり、食器を洗い、息子のうんちしたおむつを2回取り替え、洗濯し洗濯物を干すと、「じゃ、行くね」。秋晴れの爽やかな陽光を窓越しに受けながら、夫は寝床から、弱々しく手を振った。わー泥人形みたい。ひどい顔色である。「病院行ってね」そう言うと、息子を連れ、非情に家を出た。
「すこし遅れます」と店に電話を入れたら、同じ年の同僚(2人の子持ちの男性)が「だんなさんの様子見に帰ったほうがいいんじゃない」と言ってくれた。ためしに電話をしてみると、出ない。家に電話しても、出ない。なんだか心配になってきた。心配が風に乗ってどこかへ行ってしまいそうなくらい、とてもいい天気であった。あ、この香り。金木犀の香り。まだうっすら。きっと咲き始めなんだ。どこにあるんだ、金木犀。もうこんな季節。コインパーキングの横の小さな自動販売機でポカリスエットを買う。ゴロンと大きな音が、乾いた空気によく響いた。ひえひえとしたペットボトルをリュックサックに投げ入れて、家へ戻った。

夫はタオルケットを被って、眠っていた。うーん、思ったよりひどそう。昨晩から何も食べていない夫。スープに生姜をすって入れ、ごはんを加えたものを出すと「あーおいしい」と言って、あっという間に食べた。食欲はあるみたい。でも、魂が抜け出ているみたいにぼうっとしている。ズル休みしたい小学生みたいに、何回も何回も体温を計っている。何やっとんねん。ふらふらした夫を引っ張って、病院へ。風邪の症状が全くなく、頭痛がひどいということで、頭痛外来がある脳神経外科へ。病院で「熱があって、」と悲しげに話す夫。病院の体温計で計ると、36.8℃… もう一度、計り直す。それでも37.1℃。… 先週は、ひどいものもらいになり、出勤したのに帰されてしまった。疲れていますね。「もう無理はきかない年なんだなぁ。熱があるせいか、昨夜はこわい夢をたくさん見たよ。追いかけられる夢、家の鍵が開かない夢、駐禁の罰金が3万6千円くる夢…」付き添って来てはみたが、「隣の喫茶店でソフトクリーム食べて帰るんだ」と言えるくらいだし、大丈夫かな。「おだいじに」と言い残し、私は仕事へ向かった。クリニックを出て、リュックから取り出したiPodをシャッフルにすると、John Fahey"Desperate Man Blues"。うん、こんなギターが聴きたかった。

薬を飲んでよく眠ったおかげで、夫はだいぶ良くなったらしかった。というわけで、私が仕事している間に、我が家に夫の兄弟分、アルゼンチンのミュージシャンTがやって来た。仕事を終えて保育園へ向かう私は、夫とTと保育園の前で待ち合わせをして、3人で息子をお迎えに。保育園の前に息子と同じクラスの子のお兄ちゃん(幼稚園児)がいた。「おー」と声をかけると、「おー」と手を振る。「ひとり?」「うん」「ママは?」「あとでくる」「待ち合わせ?」「うん、そうだよ」「私も待ち合わせだよ」「だれと?」「アルゼンチン人。アルゼンチン、くるよ」「あるぜんちんってなに?」「ほら、あれ、きた」。夫と楽しげに歩いてくるT。再会を喜んでハグする私とTの後ろで、お兄ちゃんは「勝手に走って行くなって言ってるでしょー」とお母さんに注意されていた。(待ち合わせじゃなかった!)
Tが保育室に入ると、こどもたちは初めて見る「外国人」に(面白いほど)ぴたっと動きを止めた。どこが、何が「ちがう」って思うのかな。へー、面白い反応。(いつも通り、にこにこ寄ってきてくれる子もいた。)息子は夫に抱っこされ、至近距離からおっかなびっくりじっとTを見つめ、抱っこされると、泣かなかった。うすく微笑んで、いつもより静かだった。家まで歩いて帰る間も「もしかしたら具合悪いのかな」と思うくらい、じーっとしておとなしかった。いつもなら、行き交う車を指差して「アー!」と大騒ぎで帰るのだが。彼は彼なりに、緊張しているのかもしれない。見知らぬ人間。でも、とうちゃんかあちゃんと親しげに(知らない言葉で)お話ししている。いろいろ分かってきているから、すこし混乱しているかな。私は薄い布で息子を包み、ぎゅっと抱っこした。そうしているうち、息子はすーっと目を閉じ、眠ってしまった。

家に帰り、買ってきた豆乳黒豆パンをみんなで食べた。同じものをみんなで食べたからか、息子はいつもの調子を取り戻した。Tが軽く歌うと、ついつい「ハァー」と声を出してしまう息子。Tも息子も午年。だからというわけではないが、今日もまた馬の話をした。ここぞとばかりに、粟津潔さん装丁の素敵な本『闇のなかの黒い馬』を見せて、たどたどしい英語で解説。その流れで、古いいろいろな本を見せる。『われら日本人』という、とっても古い本。函はボロボロ。「そのからだ」編と「その人生」編2冊。戦後間もない頃の日本人の写真がたくさん。「もうこんな日本人は存在しません」。こうしてみると、日本人は見た目だけでもずいぶん変わった。中身も変わった(そう実感する今日、そしてこの頃だった)。生きとし生けるもの、良くも悪くも、変化し続けることは避けられないことではあるけれども。そうだ、この本を、友情のしるしに差し上げようではないか。Tは、何度も「ほんとうに?ほんとうに?」と聞いて、私が迷わず「うん、どうぞ」と言ったら、大事そうにちいさなビニール袋にしまった。

我が家は雑雑と散らかっていた。夫の布団敷きっぱなし、洗濯物取り込んでそのまま、生協から届いた品物も出しっぱなしであった。ふだんなら、ものすごく気になるはずなのだが、不思議とちっとも気にならなかった。「あー雑然としていて、はずかしいなぁ」という気持ちも全く起こらなかった。グラスやらペットボトルやら、息子のミニカーやら、メモ帳が散乱するテーブルの上を見て、「テーブルの上が、自分ちみたい。落ち着くー」とTは笑った。私も会ったのが二度目とは思えないくらい、リラックス。そんな私の様子を見てか、息子もリラックス。「我々ファミリーはオールウェイズ・リラックス」と、夫は笑った。
19時過ぎ、駅までTを送って行く。ずーっと日本に住んでいるひとみたいに、「マタ!」と軽く手を振り、Tは夜の町に消えていった。夫の土色だった顔色も、ずいぶん良くなって、どうやら二人は明日も会うみたい。ほんと、仲良しなんだね。ja matane!

0 件のコメント:

コメントを投稿