2015年8月24日月曜日

女はつらいよ

もう2週間も仕事を休んでいる。信じられない。こんなことになるなんて、まったくの予想外である。はじめは息子のヘルパンギーナ。それで4日休んだ。土日挟んで、今度は私がヘルパンに。これで2日休んだ。そんでまた息子が発熱。小児科から登園禁止が出て、3日休んだ。ようやく行けると思ったら、またしても私、発熱。ぜんたい、どうなっとんねん。今日は出勤するつもりで、化粧をして仕事の用意をして息子を保育園に送り届け、駅に向かった。もう喉が痛くて、頭も痛くて、おまけに寒い。ああ。腹をくくって、行きつけの耳鼻咽喉科へ。先生の撮ったらしき「アッシジの夕暮れ」というタイトルがつけられた写真をぼんやり眺める。いい写真。「20〜30羽のツバメがチイチイなきながら飛び交うアッシジの夕暮れ」と説明がつけられている。ああ。

先生は私の喉を見ると「真っ赤。気管まで真っ赤」と、マスクの上にある小さな二つの目を丸くした。この目で見たのか、アッシジの夕暮れを。「声を使うとまた出なくなる可能性大。安静に」。10時前。薬をもらって、働いている店に電話。まさかこんなに長い間、休むことになるなんて思いもしなかった。仮病じゃないのがつらい。私と息子が家でケホケホべたべたゴロゴロしている間に、もう夏はずいぶん姿をちいさくして、風にはかすかにかすかに秋の気配。ああ。

駅前のドトールで1杯だけカプチーノを飲んで(いいでしょ。2週間ぶりの街だもの)、家に帰る。夫は部屋に掃除機をかけ洗濯を干し終わり、仕事へ出かけるところだった。「じっと安静にしているんだよ」と、子供のように言われ、はあい、と生返事をすると、畳の上にモノのように転がった。ここ最近はずっと息子と一緒で、なかなか新聞も読めなかった。目ぼしい記事は切り抜いておいた。それらをゴロゴロしながら読む。あーここ、行きたい。これこれ、観に行きたい。でも無理だよなぁ。「託児サービスあり」、でも1才児は無理でしょ。見知らぬ場所で初対面の大人にひとり預けられて、楽しく遊んで私を待つとは思えない。乳幼児を子育て中の身は、コンサートに観劇にイベントには行けない。仕方ないことなのかもしれないけれど、「いま見ておかなくちゃ」というものがあるのも確かだ。「子どもより大事ですか?」「いえ、そうじゃないけど…うーん、でも、でも…」
ちなみに観たいのはこれでした→http://dance-yokohama.jp/eventprogram/dance/
「3歳未満入場不可」そうだよなぁ。つまり、3才未満の子どもを持つ親(主に母親)は、見たいものをなかなか見に行けないのである。当然?ええ、もう諦めちゃっているところもある。でも新聞なんかを読んでいると、出てくるわけですよ、こういう情報が。外で見る「ボレロ」!ああ。8月10日毎日新聞夕刊に、この「ボレロ」でメロディーを踊る柄本弾さんのインタビューが掲載されていて、それを読んでますます見たい気持ちが募るけれども、がまん。もうひとつ観に行きたいものがあって、そちらは夫が「昼公演を見ている間、俺と(息子)は散歩でもして待ってるよ」と言ってくれた。チケットが取れれば、見に行けるんだ。

それから、この季節の夕暮れ時、20才以上上のおじさんたちと飲みに行きたい。瓶ビールも冷えるから、そろそろぬる燗にするかぁ、そういう季節かぁ?とか言ってさ。「夏終わるなぁ、もう年末やなぁ」とかさ。ただのお嬢ちゃんになって、一番端の席で、冷たいおしぼりで手を拭きながら、巻かれた薄い紙に書かれたお品書きを広げてみたい。今日は、とくに、そういう空だった。ああ。

昼過ぎ、やや熱が上がって焦った。でも処方された薬のおかげか、夜には熱は下がり。眠たがる息子の横で、二階堂和美さんの歌う『女はつらいよ』を聴いた。イヤホンを左だけして、息子におっぱいをやりながら聴いた。本当はダメなんだって。おっぱいやりながら、他のことしちゃダメなんだって。そんな灰色の声を塗りつぶす、やさしい、伴奏のピアノ。ウッドベースの空気をはらんだピチカート。息子の左手の指が動きながら、私の唇から口に入ろうとしている。そのあたたかさと柔らかさが、そのままピアノと低い弦の音色のようだった。左耳から入った音楽が、右のおっぱいから息子の中に入っていくように感じた。もし私が共感覚の持ち主なら、いま、このときを、どう感じているのだろう。そうも思った。薄紫がゆっくり流れ落ち、うしろにある金色がそっと現れ、また上から紫が落ちてくる。息子は2回寝返りを打つと、そのまま眠った。濡れた髪のまま、しばらくじっとしていた。秋はふくふくとした足の裏で、ますます近づいてきているだろう。見たいものが見れなくても、しょうがないか。見れるものをだいじにしよう、そう思う母でした。

悔やんでも ばかだから
いつまでも もどれずに
気づいても ばかだから
何度でも くり返すのね

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