2015年5月30日土曜日

おばさん

「あれ、いま流行ってるんだよね」。同僚の視線を追うと、シャツの前部分をズボンに入れ、後ろ部分は出す女性。え?そうなの?そう言われてみると、そういう格好の女性があちらこちらに。へー、でも、なんだか、滑稽だ。お隣のショップ店員さんは、さすがの着こなし。大きめのシャツをラフに着て、前をイン、後ろはふわっと出している。ああいう風にしたいんだな。靴を選んでいるはずの30代初めくらいの女性は、試着している靴など見ずに、鏡の中の自分のシャツをお腹のあたりで出したり入れたり。それは、そういうふうにして着るシャツではないのでは。しばらく、いろいろ試していたけれど、結局、全部、外へ出して、靴を脱ぐと、何も買わずに帰って行った。

他のお店のお偉いさん。シャツの第2ボタンまで大きく開けて、金色のチェーンネックレスを覗かせ、指にはGの形をしたブランド物のでっかい指輪をしている。紺のジャケットをはおり、米袋のような色と素材のズボン(パンツというべきだろうか)は、くるぶし丈のものをさらに詰めたのだろうか、少し裾が開いていて、パンタロンのようになってしまっていた。そこに、子供がするような布のベルト。素足に履いた黒いスリッポンはキュッと小さめ、さらにかかとに大きな絆創膏が貼ってあった…靴擦れしたんだね。同僚によると、「クールジャパンがきてる。取り入れていかなくては」と、エレベーター内で興奮気味に話していたという。横で聞いていた同僚は「なんか、ハラハラした」と言っていた。クールジャパンがきてるって今更…

外に働きに出て、1ヶ月。働く以外にも、日々、さまざまなことに出くわす、知る、思う、考える。ファッションビルで働いているので、おしゃれなひとがたくさん。でも、昔に比べたら、強烈におしゃれなひとっていなくなりましたよね。かく言う私は、もっぱらTシャツである。今日は、先日、迷った挙句に購入した「多大なるとうもろこしへの愛」Tシャツを着て、眼科や美容院へ。注目度まんてん。作者の愛溢れる絵に勇気りんりん。麦わら帽子を頭に載せて、暑い東京を歩く。

さささーっと用事を済ますと、最寄駅にある行きつけの老舗喫茶へ。ランチタイムに滑り込みセーフ。読み始めた、中村文則さんの『教団X』を夢中で読む。いつもの「おばあさん」ウェイトレスさんと話していたら、がっしゃーん!彼女が、タバスコの瓶をドラマチックに割った。おー。タバスコの匂いは主張が強い。「私はおっちょこちょいなのです。お客様」と言いながら、雑巾で破片を集める。そこへ若い店員さん(ここでの若いは30代後半)が「手、大丈夫ですか?僕、やりますよ」と駆け付けた。やさしいなぁ。「いいよ!ありがとね!大丈夫。それより、お客様。破片が足についたりしていないかしら。失礼いたしました。匂いがきつくて申し訳ありません。お席、移動しますか?」チャキチャキと、濡れ雑巾で床を拭いてくれた。私、年をとったら、きっと、この人に似るな。おしゃべり中に何かしでかすとか、ぜったいやりそう。

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実は、このブログ、3日くらい前から書き始め、途中で寝てしまったりして、まったく進まなかったものである。毎日、本当にいろいろなことがあって、いちいち書いてみたいけれど、一番書いてみたいこと。それは、「私は町のお節介おばさんを目指したい」ということなのである。そして今、日々ひそかに?それを実践している。例えば今日、渋谷駅の地下鉄構内でキョロキョロしているおばあさん二人組に「どこかお探しですか?迷ってらっしゃる?」と声をかけた。すると、ひとりは、とうもろこしのTシャツを着て、派手なスニーカーを履いたご陽気ないでたちの私を思いっきり警戒した。しかし、もうひとりが「JRに出たいのです」と言うので、案内。「ご親切に…」と言いながら、二人は明らかに戸惑っていた。でも、結果オーライでしょ。

困っていても、誰にも話しかけられないと、誰もが思っている。でも、もし私ができることがあれば、躊躇することなく声をかけたい。もちろん見返りは求めない。無視されても構わない。お節介おばさんは、そういうことに頓着しないのである。おばさん。いい響き。もっと早くおばさんになればよかった。年齢は十分、おばさんの域だったかもしれないが、メンタルが体力がついていっていなかった。「オバさん」と書くと、図々しい感じがする。そうはなりたくない。スマートにお節介。できれば、気品を漂わせたいものです。

昨日、お店に旅行中のアメリカ人男性がやってきた。楽しく会話して、帰りがけに「Thank you ladies」と私たちに言った。Ladyなんて言われたことないわー録音していい?と私が笑って言うと、じゃあ何て呼ばれてるの?…「…おばさん?」と笑うと、日本語はわからない、と言うように肩をすくめて、帰って行った。その時、ああ、そうよ、おばさんよ、私、と、ぐっときた。これ、いきなり、他の人から言われたら、失礼だわ、とか思うんだろーか。いや、思わないだろう。同僚が「いやー、ぐっと近づいていくよね。お客さん、逃げられなくしてるよね」と言う。いやいや、逃げられなくしているなんて、そんなことはしていません。直接の「売り上げ」にならなくても、親切にしたいの。雇われの身なので、そこは、忘れないようにしつつ。

担当してくださっている美容師さんのお兄さんは、ジョギングしながら、会う人会う人に挨拶するのだそうである。近所の子供達には「元気さん」と呼ばれているらしい。いい。元気に、明るく、お節介。拒否してくださっても、かまわなくてよ。そんな余裕のあるおばさんになりたい。

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