2015年3月2日月曜日

春の緒

部屋のヒヤシンスが花の時期を終えて、今、ピンクのフリージアが満開。まだ少しひんやりとした外の空気に、よく香る。とってもいいお天気なので、息子を連れて、お散歩がてら区役所へ。保育園入園のための書類を提出に行った。てくてく歩いていると、河津桜だろうか、まだ閉じたつぼみから濃いピンク色が覗いている。入園式まで、1ヶ月を切ってしまった。夜しかおっぱいをやらなくなって、私のおっぱいはもう張らなくなってきた。息子は、保育園で出される銘柄のミルクをごくごく飲んでいる。少しさみしい気もするけれど、もともと春って、そういうところがある季節だもの。

入園式。そうよ、何を着ていくのよ、私。道端で立ったまま、グレープフルーツジュースを飲んでいた。ひらめき。数日前に、ふらりと立ち寄った駅ビルの中のお洋服屋さんに、とても感じのいい店員さんがいたことを思い出した。印象をひとことで言うなら、bright、という感じ。ショートカットがすてきによく似合う女性。おすすめが具体的で、全く押し付けがましくなく、かつ、さりげなく値段を言ってくださるのが、とてもよかった。その時も息子を抱っこしていたから、試着ができず、何も買わずに店を出た。でも、久しぶりに気持ちがいい接客をしていただいたから、近いうちにまた伺いたいな、と思っていたのだった。そうね、これから行ってみよう。その時見せていただいた、お財布と携帯電話とハンカチが入るくらいのポシェットだけでも、とりあえず買っておこうと、お店へ向かった。

ポシェットはあいにく売り切れていた。ご親切に、他店舗から取り寄せてくださるという。取り寄せ用紙(というのだろうか)に、名前と電話番号を記入するため、カウンターへ。カウンターの上には、入荷したてらしい、きちんと畳まれたボーダーシャツが重ねられてあった。白地に赤のボーダーがいちばん上。端を揃えて数枚、重ねてある。ああ、清潔できれい。何だかすっきりとした気持ちになって、ふと横を見ると、知っているCDが飾られていた。渋谷にあるバーが出しているコンピレーションCD。実は夫との2回目のデートで連れて行ってもらったバーなのだった。うきうきの思い出というよりは、コーヒーのカクテルを飲みながら、「この人ないな…」と、夫とろくに話もせずに、バーへ立ち寄る前に観てきたダニエル・ラノワのライブでドラムを叩いていたブライアン・ブレイドのことを考えていたという、そういう思い出である。それで妙に懐かしくなってしまい、「Nさん(そのバーの店主)と、お知り合いですか?」と、思わず質問してしまった。そんなところから、するすると話が始まって、彼女が、私たち夫婦の知人や友人が紹介する音楽のファンであることを知った。
世に送り出された音楽は、こうして着地すべきところに着地しているんだなぁ。それを目撃できたようで、私は静かに興奮した。「いい音楽を聴きたくて、探しているんですよ」と彼女は言った。
店員さんはきっと、耳を澄まして音楽を聴く人だろう。好きなものは丁寧に扱う人だということは、商品であるお洋服の扱いを見れば分かる。だから、お客さんの好みも丁寧に酌んであげれるのかもしれない、と合点がいった。

それにしても、女性と音楽の話を緒に盛り上がるなんて、ほんとうに久しぶり。あまりに盛り上がりすぎて、泣きかけていた息子が黙ったほどだった。お仕事中に申し訳なかったけれど、うふふふふ、楽しかった。

家に帰って、CDを2枚選び、フリージアの鉢の横に重ねて置いた。店員さんにプレゼントしようと考えたのである。きっと大事に聴いてくださるだろう。おまえたち、喜んでくれる人のところへ行きなさい。
開け放たれた窓から、夕暮れ近い冷えた風。かすかにかすかに、梅の花の香りがする。あ、胸の奥で鈴が鳴ったような。春って、いい予感がする季節でもあったのね。

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