2015年2月21日土曜日

とりとめなく

昨日は、朝から息子の7ヶ月検診に行ってきた。仕事が休みの夫も一緒である。体重、身長、頭囲、胸囲を測り、先生が息子の「発達」の様子を見る。息子の成長。心配することは何もないとのこと。「元気に育っています♪」というスタンプを母子手帳に押していただいた。
その後、栄養士さんに離乳食の進みについて相談。この栄養士さん(50代くらいか)、ちっとも私と息子の顔を見ない。何か質問すると、本やプリントをめくりながら、そっちを見て話す。夫は息子を連れて、そっと部屋を出て行ってしまった。私が「4月から保育園に行くので」と話したら、その時だけ「えっ、こんな小さいのに、もう?!」と、こちらを見た。そして、保育園のミルクに慣れさせるために、ミルクを変えようかと思う、と話したら「保育園はA社さんのミルクですか。おうちではB社?ずいぶん成分とか味とか違うでしょうねえ。ちなみに、母乳に一番近いのは、C社の◯◯。おうちでは、こちらとかB社のミルクを飲ませてもいいんじゃないかしら」とC社のミルクを押してきた。いや、だから、保育園のミルクに変えようと思ってるって言ったでしょ。C社の回し者かい。こういう栄養士さんもいるんだな。勉強になりました。ちなみに、私の「相談相手」である『育育児典』には「どのメーカーのミルクでもたいした違いはないので、預け先と家とで別のミルクを与えても、どうということはないでしょう。ただ、どちらかといえば、預け先のミルクを家でも与えるほうが、混乱がなくてよいかと思います。」あと何年も、ミルクを飲んでいるわけじゃない。試しに変えてみるつもりよ。

帰ると、部屋に光が射し込んでいて暖かい。息子の離乳食は、日当たりの良い場所で、窓を全開にして、食べさせた。おかゆと、さつまいもと人参とバナナを少しずつ。ミルクも自分で120ml飲んで、ごきげん。そうよねえ、こういう日は気持ちいい。専門家の意見には、もう惑わされないぜ。いいところは取り入れるけれども、私の子どもだもの。栄養士さんがくれた試供品やプリントを放り出して、笑いながら、はい、ごはん、どうぞ。私も少しは成長したのかな。

夫は夜から、知人の経営するバーがオープンするので、DJをすることになっていた。DJというとカッコよすぎる。BGM係と言いたいね、と話しながら、息子が離乳食を食べている横で、CDやらレコードをバッグに詰めていた。我が家は、夫も私もそれぞれレコード店で働いていたことがあるので(ライバル店同士)、地方店の在庫ぐらいCDやらレコードがある。夫が押入れにしまいこんだものもあって「あれ?あのCD、どこ行った?」となると、大捜索の幕開けとなる。私も「あ、あれ、いいんじゃないかなぁ。こういうジャケットで、こういう内容」と思い出したりして、更に捜索は難航… 何とかまとめて、昼過ぎ、ドライブがてら、一家総出で恵比寿へ向かった。あまりに大量なので、車で先に運んでしまうことにしたのである。

夜にオープンを控えたバー。きっと忙しくされているだろうから、私と息子は建物の外でおとなしく待っていようと思っていた。しかし、親切なスタッフの方々に案内され、少しだけ、お邪魔させていただいた。想像以上に、すてきな空間だった。ドアを開けるとガラスの扉の棚。中にはメキシコの骸骨の置物や、本、レコードが品良く飾られている。その向こうにカウンター。酒瓶が照明に照らされて、ぴかぴか光っている。奥に進むと、カウンターの奥にレコード棚。地球儀が、青いのと黒いの。そして、大きな窓、座り心地が良さそうなソファ。午後のやさしい陽光が、テーブルの上に射し込んでいた。夫が「無国籍な感じで」と選曲していたのだが、明るいうちに、このソファに座って、James TaylorとかRickie Lee Jonesとか聴きながら、手紙を書いたりするのもいいかも。夜になると、また違う感じになるだろう。趣味の良さを押しつける感じが微塵もないのね。うん、気に入った。息子が大きくなったら、ぜひ飲みに行きたい。カウンターにある酒を端から順に飲んでいきたい。

帰り道、夫が「Sさん(バーのオーナー)のレコードコレクション、おもしろいんだよ。ツボをついたコレクションで、聴いたことないのもたくさん。でもマニアって感じじゃないし、ものすごく詳しいってわけじゃないんだよね。本当に音楽が好きなんだっていうのが伝わる、いいレコード棚なの」。
それで思い出したのが、吉田秀和さんの「小林秀雄」に出てくる大岡昇平さんのレコードコレクション。少し長いけれど、引用します。(でも、もしお読みになったことがなければ、ぜひ読んでみてください。講談社文芸文庫『ソロモンの歌 一本の木』(吉田秀和 著)に収録されています。)

数年前、大磯の大岡昇平さんのお宅で、小林さんにお目にかかった。少しお酒が入ると、小林さんは、レコードをききたがり、「名人をきかせろ、名人をきかせろ」といった。大岡さんが、「そう、何があるかな」といって、探したが、なかなかうまいのが出てこない。失礼だと思ったが、私が立って、大岡さんのコレクションをひっかきまわしてみると、いろいろモーツァルトの珍しい曲とか何とかはあっても、名人の名演と呼べるほどのレコードはほとんどない。やっと、オイストラフの独奏したシベリウスの『ヴァイオリン協奏曲』がみつかったので、それをかけると、小林さんはとても陽気になり、一段と早口になって、「こうこなくっちゃ、いけません」とか何とかいいながら、真似をしたり、陶然とききほれたり。それを見ているのは、本当に楽しかった。(中略)
ずいぶんたくさんのレコードを持っていながら、「名人を」といわれると「そんなのがあるかな」といいながら、うろうろあたりを探しまわる大岡昇平さんの姿にも、私は、とても感心した。これもまた、一つの純粋さである。一つのすごい素直さである。この師にして、この弟子あり! しかも、小林さんと反対に、大岡さんのコレクションには、「名人芸」への尊敬から買ったものは一枚もないのだ。

一度だけお会いしたことがあるSさんは、大きな体で大きな目玉の人だった。日本橋にある居酒屋で、アルゼンチンのミュージシャンを囲んで4、5人で飲んでいた。Sさんは端の席で、秋刀魚の梅肉和え、焼き秋刀魚、秋刀魚の刺身を食べながら、英語が全く分からないと、会話には参加しない。けど、こういう席にいるだけで楽しいと、にこにこと焼酎を飲んでいた。迷彩柄のジャケットを着こなす、おしゃれな人だった。後で夫に聞いたら、気鋭のデザイナーさんだということだった。
そのSさんが開いたバー。夫は18時から7時間ほど、BGM係を務めたらしい。朝、夫に聞いたら、Sさんはカウンターに立ち、照明、お客様、そしてスタッフの動き、ありとあらゆるところに大きな目玉を光らせていたらしい。夫のかける曲に素早く反応して「これ、ええなあ」と喜んでくれたりもしたらしい。この人もまた、すごい純粋さ、素直さの人なのかもしれない。きっと、いいバーになりますね。

純粋。今まで、使うのが気恥ずかしかった言葉。でも、赤ん坊を育てていると、純粋さというのは確かにあるのだと思うことがある。この世の全てが目新しい、そういう存在。何かが五感に(もしかしたら六感に)触れた時の驚き。いや、驚き、なんて、ひとことでは言えない。あらゆる感情がmixされたような、ひらめき。眼はwonderで満ち満ちる。wonder-fulという言葉の意味を、私は、赤ん坊を持って初めて理解した。これまでは、wonderful、と、やすやす口にしていたけれど、もうこれからは、滅多なことでは使えない。
赤ん坊の時の「純粋」は、大人になるに従って、すり減っていくだろう。でも、女性より男性の方が、ほんのひとかけらでも、この「純粋」を残しているのではないか。これもまた、男性と暮らしてみて、実感したことである。

さっき、めいいっぱいうんちを出して、息子は眠ってしまった。重くなったねえ。おんぶ紐が肩に食い込む。まだ7ヶ月、もう7ヶ月。息子の純粋さを、中途半端に黒く塗りつぶさないようにしなくては。

こんなふうに、とりとめなく。昨日も今日も、おそらく明日も、1日を過ごしています。

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