2015年2月4日水曜日

All Gone Crazy Now

息子が4月保育園入園の内定をいただいたのを受けて、今後の勤務形態のあれこれを話しに本社のある池袋へ行ってきた。池袋。絶対に迷う街。なじみの店が一軒もない街。映画か演劇を観に行く以外で足を運んだことがない街。山手線を降り、東口へ向かっていると、地下道の隅っこで地べたに座り、ひたすら編み物をしている老婆。毛糸は薄いベージュ。けっこうなスピードで、黙々と編んでいる。その前をどんどん人が通り過ぎていく。老婆は皆には見えていないのだろうか。

昼時だったので、「蕎麦」と筆字で書かれた、のぼり旗が威勢のいい蕎麦屋へ入る。薄暗い照明の店内、中年の女性がちゃっちゃと注文を取りに来てくれる。天せいろを注文。「天せいろ一丁!」と女性店員、「あいよー!」と奥からハリのある男性の声。サラリーマンと年配の女性ひとり客が多い。向かいの席のおばさんが、夢見る少女のように頬杖をつきながら、カレーうどんを待っている。隣のサラリーマンの男性も天せいろ。せいろの上に、海老入りのかき揚げが載っている。おそば、ひさしぶり。ひとくち食べて、ああ私、そばが食べたかったんだ、と心の底から思う。あれ?子どもを産んだのは夢なのか?ずっと、ひとりだったっけ?そば茶を飲みながら、ボンヤリそんなことを思っていたら、おっぱいがギュインと痛くなった。

保育園の内定を、社長ご夫妻は「よかったねえ」と喜んでくださった。私は笑顔で、そうですね、と答えながら、働くよ私は、と自らに言い聞かせる。今の仕事を嫌いではないけれど、「何をされているんですか?」と尋ねられると、口ごもってしまうのはなぜなのか。デパートで革靴や鞄のケアとか、ケア用品の紹介とか、インソールの見立てとか、やってます。なんだか、しっくりこないのである。なぜなんだろうなぁ。歴史の古い、家族経営の、いい会社なんだけど。
社長ご夫妻と、勤務時間やお給料の話なんかを30分ほど。私は正社員からパートタイマーになるそうだ。女が子供を持って今まで通りの待遇で働くのって、難しい。働ける時間は少なくなるし、仕方ないのか。「がんばって働きまーす」と小さく明るい声で私は言った。

本社を出て、横断歩道で信号待ち。息子をお願いしてきた夫に電話をしていたら、男の怒号が聞こえる。顔を上げると、横断歩道の真ん中で、金髪の男が警官6、7人に取り押さえられている。信号が青になり、男に近づいていく。男は虹色のパンツ(下着)一丁で裸足、何かを叫び、暴れている。男のお尻はぱちっとして、パンツの上に載ったお腹のお肉は固そうだった。男の様子が気になるところなのだが、ものすごく「ヤバい」気配がぷんぷんするので、私を含めた歩行者全員が真っ直ぐ前を見て、横断歩道を足早に進んで行く。そこへ更にもう1台、パトカーがサイレンを鳴らしながら、ドラマチックにやってきた。ちらっと道の脇を見たら、男のものだろうか、大きな靴がきちんと揃えて置かれてあった。

夫との電話を切ると、雑音を打ち消すようにi-podを起動させた。シャッフルにしたら、COMBO PIANO "All Gone Crazy Now" が流れ始める。アルバム"Growing Up Absurd" の中の一曲。あ、これ、あ、これ。しっくりきた。池袋って場所は、建物と建物の距離感とか高さとか道幅とか、何もかも、どうもしっくりこない。今、私にしっくりきているのは、この音楽だけ。今、いま、この瞬間。音楽で鼓膜から脳を振動させ、雑雑と猥雑な街をガシガシ歩く。
駅の地下道に編み物老婆の姿は、もうなかった。

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