2014年12月30日火曜日

再見

会いたいと思っていた人が亡くなっていたことを知る。しかも1か月も前に。私に彼女を紹介してくださったX氏に夜、電話した。出ないところをしつこく3回コールした。「Mさん、亡くなったんですか」「そう」「知らなくて。今、知って」「……」「ショックで。すみません、失礼します」
ここ最近、まともに新聞も読んでいなかったからとは言え、なぜ分からなかったのだろう。ありあまるエネルギーのせいで、彼女はずいぶん生きにくそうだった。だけど死ぬなんて。50才は若すぎる。

昨晩、布団の中で彼女を思った。ひどく気は動転していたけれど、涙は出なかった。もうこの世に彼女はいない。ことばにしてみたけれど、まるで実感がわいてこない。ただ、胸に真っ暗な砂漠が出現したような、寒々とした気持ちになった。

初めて会ったのは10年ほど前。今まであったどんな人より、エレガントな女性だった。でも、そう見られたくなくて、わざと蓮っ葉に振舞っていた。そして、いつでも飲酒していた。もうどの状態がしらふなのか、分からないほどだった。よく嘘をついた。はじめのうち、私は大いに振り回された。しかし、彼女の嘘の裏には、彼女が信じることへの巨大な愛が溢れているのだと、あるとき気がついた。それがねじれまくって、嘘になっているような気がした。それに彼女の嘘は、こちらの本気度を試す。自分がぶれないでさえいれば、振り回されることはなかった。

彼女にまつわるエピソードはどれも強烈だ。ここでは、とても書けないことばかり。思い出すのは白くて細い指。こちらが好意を示したときの戸惑いを隠そうとするぎこちない微笑み。チャイナドレスがとてもよく似合った。一緒にお酒を飲むと、英語で話したがった。その方が本音を言えるようだった。居酒屋で私たちは英語で話し、同席した人たちの反感を買った。深夜、面と向かって彼女の嘘を指摘した時は哀しそうだった。なんともない、そうとりつくろうかのように、食べかけのトラピストクッキーを箱ごと私にくれた。終電がなくなって、私は線路伝いに何時間も歩いて帰った。その間、彼女から電話が入り、途中で切られ、またかかる。そのうち朝がきた。私が未熟なせいで、真綿で首を絞めるようなことをしたかもしれない。息子を産んだことを話したら、きっと喜んでくれただろう。そうしたかった。

またどこかで「よっアニキ」と、ふざけて現れそうな気がする。細身のジーンズの足は外向きに、バッグは肩にかけ腕は前で組んで、黒くて長い髪はひとつにまとめられている。「わーひさしぶりだけど、ひさしぶりって感じがしなーい」と私は笑うだろう。

彼女を思いながら、笑って、私は生きています。

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